物流の「2024年問題」対応に追われる一方で、現場ではすでに「物流2026年問題」への備えが急務になっています。2026年4月の改正物流効率化法の全面施行により、中長期計画の作成・定期報告・物流統括管理者(CLO)の選任といった新たな義務が本格的に動き出します。
これらは一見すると本社ロジ部門の仕事に思えますが、実際には「荷待ち」「荷役時間」の現場データがなければ、計画も報告も成り立ちません。まずは荷待ち時間のデジタル記録から着手することが、倉庫やセンターにとって最初の一歩になります。
本記事では、物流2026年問題とは何か、2024年問題との違い、2026年4月からの義務内容、そして倉庫現場が今から取り組むべき荷待ち記録のデジタル化までを、実務目線で整理します。
物流2026年問題とは何か?2024年問題との違い
まず、「物流2026年問題とは何か」を2024年問題との関係から整理します。
2024年問題:ドライバーの働き方改革が起点
2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に年間960時間の上限が適用され、いわゆる「物流の2024年問題」が顕在化しました。国土交通省の「物流の2024年問題について」によると、何も対策を講じない場合、2024年度に約14%(約4億トン)の輸送力不足が生じる可能性があるとされています。
これは、長時間労働を前提に成り立っていた既存の輸送体制が、法規制により維持できなくなることを意味します。現場では、
- 運行本数の削減・積載率向上のプレッシャー
- 点呼・運転日報・勤怠の厳格管理
- 荷待ち・荷役の短縮要求の高まり
など、「時間」を巡る意識改革が一気に進みました。
2026年問題:荷主・元請の責任と構造改革が本格化
一方、物流2026年問題は、ドライバー個人の働き方だけでなく、荷主や元請を含めた物流全体の構造を見直す動きが中心です。国土交通省・経済産業省などが進める「物流革新に向けた政策パッケージ」(2023年6月公表)は、
- ①商慣行の見直し
- ②物流の効率化
- ③荷主・消費者の行動変容
の3本柱で、荷主側の責任と行動変容を強く打ち出しています。
この流れの中で改正されたのが「物流総合効率化法(改正物流効率化法)」であり、2026年4月の全面施行により、
- 年間取扱貨物重量9万トン以上の特定荷主・特定連鎖化事業者に
①中長期計画の作成義務
②定期報告義務
③物流統括管理者(CLO)の選任義務 - 荷待ち・荷役等の時間は1運行あたり原則2時間以内(努力目標1時間以内)という判断基準を明示
といった規定が加わりました。CLO選任義務違反には100万円以下の罰金も規定されており、2026年問題は単なる「ガイドライン」ではなく、法令に基づく運用フェーズに入ったと言えます。
国交省データで見る「荷待ち時間」の深刻さ
改正物流効率化法の核心にあるのは、やはり荷待ち・荷役時間の削減です。国土交通省の調査データから、現状の深刻さを具体的に確認します。
1運行あたり荷待ち時間は平均1時間34分
国土交通省の「トラック輸送状況の実態調査」によると、トラック1運行あたりの荷待ち時間は平均1時間34分とされています。さらに、荷待ちが発生している運行では、ドライバーの拘束時間が約2時間長くなることも明らかになっています。
現場の感覚としても、朝一番のバース前や、午後のピーク帯における長蛇の列、守衛室や受付前でのドライバーの待機風景は珍しくありません。フォークリフトがフル稼働している一方で、呼び出されずにキャビンで待機するトラックが数台並んでいる、といった光景が日常化しているセンターも多いでしょう。
荷待ち・荷役作業等で拘束時間3時間、政府目標は「1時間以上短縮」
同じく国土交通省のデータでは、2020年度時点で、ドライバー1運行平均拘束時間のうち、荷待ち・荷役作業等は計約3時間を占めています。政府はこの時間を1時間以上短縮することを目標に掲げています。
つまり、現場としては1運行あたり1時間以上の「待ち・荷役時間」削減が求められていることになります。バース数を増やす、フォークリフトを増台するといった投資型の対策だけでなく、
- 入庫・出庫予約の平準化(ピーク集中の緩和)
- 受付〜バース割当〜呼び出しまでのオペレーション見直し
- 人手に頼った口頭連絡・紙台帳からの脱却
など、プロセス面の改善が不可避です。
輸送力不足は2030年度に約34%、うち約14%は官民の取組で克服見込み
国土交通省の資料では、2030年度には約34%の輸送力不足が生じる可能性が指摘されています。2026〜2030年度の「総合物流施策大綱」では、この約34%の不足のうち約14%は官民の取組により概ね克服されると見込む一方で、残りの不足への対応を今後の課題と位置付けています。
この「官民の取組」の中には、モーダルシフトやフィジカルインターネット構想、ダブル連結トラックや自動運転トラックなどの先進技術も含まれますが、同時に荷待ち・荷役時間の短縮が前提条件になっています。荷待ちが3時間当たり前という状況では、どれだけ最新の車両を導入しても輸送力不足は解消しません。
2026年4月全面施行:改正物流効率化法の義務内容
ここからは、2026年4月1日に全面施行される改正物流効率化法の具体的な義務内容を整理します。
対象となる「特定荷主・特定連鎖化事業者」とは
改正法では、年間取扱貨物重量9万トン以上の荷主企業と、一定規模以上の共同配送・共同保管等を行う連鎖化事業者が、「特定荷主」「特定連鎖化事業者」として指定されます。これらの事業者には、物流効率化に向けたより踏み込んだ義務が課されます。
大手メーカー・卸・小売の物流本部だけでなく、全国に複数の物流センターを構える3PL企業や共同配送スキームを運営する事業者も含まれる可能性が高く、倉庫現場のオペレーションも直接的な影響を受けます。
中長期計画の作成義務
特定荷主・特定連鎖化事業者は、物流効率化に関する中長期計画を作成し、国に提出する義務を負います。この中には、
- 輸送モードの見直し(モーダルシフト等)
- 共同配送・共同保管等の連携スキーム
- 荷待ち・荷役時間の削減目標と手段
- IT・デジタル技術の活用方針
といった内容が含まれると想定されます。計画の中で「荷待ち時間を◯%削減」といったKPIを掲げる以上、現状値の把握と継続的なモニタリングが欠かせません。
定期報告義務
作成した中長期計画については、定期的な進捗報告が求められます。報告の具体的なフォーマットや頻度は今後詳細が詰められていきますが、少なくとも、
- 荷待ち・荷役時間の実績値
- 共同化・モーダルシフトの実施状況
- ドライバーの拘束時間・労働環境の改善状況
など、定量的な数値に基づく報告が求められると考えられます。ここでも、現場での荷待ち時間の記録が不可欠です。
物流統括管理者(CLO)の選任義務と罰則
特定荷主・特定連鎖化事業者には、物流統括管理者(Chief Logistics Officer:CLO)の選任義務が課されます。CLOは、社内の物流改善を統括し、中長期計画の策定・実行・報告の責任を負う立場です。
CLOの選任義務に違反した場合、100万円以下の罰金が科される可能性があります。名ばかりのポストではなく、実質的な権限と役割が求められることになるでしょう。
荷待ち・荷役等時間「2時間以内(努力目標1時間以内)」の判断基準
改正物流効率化法では、荷待ち・荷役等時間について、1運行あたり原則2時間以内(努力目標1時間以内)という判断基準が示されました。これは、
- 受付待ち(守衛室での順番待ち、台帳記入待ち)
- バース待ち(バースが空くまでの車両待機)
- 積み込み・荷下ろし作業(フォークリフト・台車等の作業)
といった時間の合計を2時間以内に収める、という目安です。現状平均1時間34分の荷待ち時間に加え、荷役時間を含めると3時間を超えるケースが一般的であることを考えると、多くの現場にとって相当にチャレンジングな水準です。
2025〜2026年にかけて強化される「荷待ち時間の記録義務」
2026年問題のもう一つの柱が、荷待ち・荷役時間の「見える化」です。記録を残し、改善につなげることが求められています。
2025年4月から拡大する「荷待ち・荷役時間の記録義務」
2025年4月以降、30分以上の荷待ち等の記録・1年保存といった荷待ち・荷役時間の記録義務が拡大されます。対象となるのは運送事業者側ですが、実際のオペレーションでは、
- いつ到着し、いつ受付したか(守衛室・受付端末の時間)
- いつバースに着車し、いつ作業を開始・完了したか
- いつ出庫したか(ゲート通過時刻)
といった情報を、倉庫側・運送側が連携して記録する必要があります。紙の受付票やホワイトボードへの手書きだけでは、正確なタイムスタンプを残し、1年分を保管することが難しくなります。
「トラック・物流Gメン」と荷主勧告制度の強化
2023年7月に創設された「トラックGメン」は、2024年11月に「トラック・物流Gメン」に改組され、長時間の荷待ちを強いる荷主・元請への調査・是正働きかけを強化しています。フローとしては、
- 働きかけ
- 要請
- 勧告・公表
というステップで是正を求めていきます。
また、貨物自動車運送事業法に基づく荷主勧告制度では、荷待ち時間の恒常的発生を荷主が改善しない場合、勧告・社名公表の対象となる可能性があります。ここでも、荷待ち時間の記録が重要な判断材料となります。
倉庫現場の最初の一歩は「荷待ち記録のデジタル化」
ここまで見てきた通り、物流2026年問題の鍵を握るのは、荷待ち・荷役時間の削減と、そのための「見える化」です。とはいえ、いきなり中長期計画やCLO体制の議論を始めても、現場の実感とはかけ離れてしまいがちです。
倉庫・センターの現場にとっての現実的な最初の一歩は、次の3点を満たす「荷待ち記録のデジタル化」です。
1. 守衛室・受付でのチェックインを時刻データとして残す
トラックが敷地に到着したタイミングで、ドライバーが守衛室に立ち寄り、受付簿に会社名や車番、積み荷情報を手書きする——多くの現場で見られる光景です。このプロセスを、
- QRコードを読み取るだけで受付完了
- ドライバーはスマホ画面から車番・積み荷・荷主名などを選択入力
- 受付時刻が自動でサーバーに保存
といった形に変えるだけでも、「何時に来て、何時に受付したか」がデータとして残せるようになります。紙の受付票と違い、集計のための転記作業も不要です。
2. バース呼び出しと作業完了をワンタップで記録
荷待ち時間を正確に把握するには、受付時刻だけでなく、
- バースに呼び出した時刻
- バース着車時刻
- 作業開始・完了時刻
も記録する必要があります。とはいえ、忙しいフォークリフトオペレーターや構内係員に、細かい手書き記録を求めるのは現実的ではありません。
現場での運用を考えると、
- バース担当がタブレットで車番を選択し「呼出」「作業開始」「作業完了」をワンタップで登録
- その操作がトリガーとなって、ドライバーのスマホにLINEやSMSで呼び出し通知
- ステータスの変更と同時に時刻が自動記録
といった、「オペレーションと記録が一体化した仕組み」が理想です。この形なら、現場負荷を増やさずに荷待ち時間をデータ化できます。
3. CSV出力で本社ロジ部門・CLO候補にデータ提供
2026年以降、中長期計画の策定や定期報告を担当するのは、本社のロジスティクス部門や、選任されたCLOになります。彼らが必要とするのは、
- センター別・荷主別・時間帯別の平均荷待ち時間
- 荷役時間(作業時間)の分布
- ピーク日のボトルネック状況
といった集計データです。
現場でデジタルに記録した荷待ち・荷役時間を、CSV形式で簡単に出力できるようにしておけば、
- 本社側でBIツール・表計算ソフトに取り込みやすい
- 中長期計画・定期報告書への数値転記がスムーズ
- トラック・物流Gメンからのヒアリングにも客観データで応じられる
といったメリットがあります。逆に、紙やバラバラなExcelで管理している状態だと、「2025〜2026年のデータをすぐに出せない」こと自体がリスクになりかねません。
| 対応段階 | 現場でやること | 本社・CLOの活用 |
|---|---|---|
| ①記録 | QR受付・呼出ワンタップなどで到着〜出庫の時刻を自動記録 | センター別・荷主別の現状把握(ボトルネックの可視化) |
| ②分析 | CSVを出力し、簡易な集計・グラフ化で現場改善に活用 | 中長期計画のKPI設定(例:荷待ち30%削減) |
| ③報告 | トラック・物流Gメン等からの問い合わせにデータで説明 | 改正物流効率化法に基づく定期報告・荷主勧告制度への備え |
多言語化・人材多様化も進む2026年問題への中長期対応
2026年問題は、荷待ち削減と同時に、「誰がトラックを運転し、誰が倉庫で働くのか」という人材面にも影響します。
特定技能「自動車運送業」分野の追加と外国人ドライバーの増加
2024年3月には、特定技能制度に「自動車運送業」分野が追加され、外国人トラックドライバーの受入れが制度化されました。2026年3月の技能試験には408人が受験するなど、受入れは本格化しつつあります。
また、物流・旅客企業230社を対象とした2025年の調査では、50.9%が外国人材との日本語コミュニケーションに不安を抱えていると回答しています。今後、特定技能外国人や技能実習生など、外国人ドライバー・倉庫作業者がさらに増えていくことを考えると、
- 受付・呼出・作業指示の多言語化
- ピクトグラム等を活用したわかりやすい表示
- ヒューマンエラーを減らす標準化されたオペレーション
が不可欠になります。
デジタル化と多言語対応を兼ね備えた「呼出特化型システム」という選択肢
中長期的な人材多様化を見据え、最近では、荷待ち時間の自動記録とドライバー呼出をセットで行える呼び出し特化型のシステム(例: ヨビトラなど)を導入する物流倉庫も増えています。こうしたサービスの中には、ドライバー向け画面やQRセルフ受付、呼出通知が日・英・中・越・葡(ブラジル)・尼(インドネシア)の6言語に対応し、外国人ドライバーでも母国語で受付〜呼出が完結できるものもあります。
月額4,980円(ライトプラン・税別)から利用でき、荷待ち時間の自動記録をCSVで出力できるタイプであれば、2025年以降の荷待ち記録義務への対応と、2026年以降の中長期計画・定期報告の基盤づくりを同時に進められます。多機能な大規模向けWMS・バース予約システムとは別に、「呼出と荷待ち見える化」に特化した軽量ツールを併用するのも一つの戦略です。
まとめ:2026年問題への備えは「2025年の荷待ちデータ」から
物流2026年問題は、2024年問題の延長線上にあるだけでなく、荷主・元請を含めた物流全体の構造改革を迫るものです。2026年4月の改正物流効率化法の全面施行により、
- 年間取扱貨物重量9万トン以上の特定荷主・特定連鎖化事業者には
中長期計画の作成・定期報告・CLO選任が義務化 - 荷待ち・荷役等時間は1運行あたり原則2時間以内(努力目標1時間以内)
といった基準が明確になります。その前段として、2025年4月からは30分以上の荷待ち等の記録・1年保存義務も拡大されます。
これらに対応するために、物流倉庫・センターの現場が今から着手すべきことは、
- 守衛室・受付〜バース呼出〜作業完了までの時刻をデジタルに自動記録する
- 荷待ち・荷役時間をCSVで出力し、本社ロジ部門・CLO候補に提供できる状態をつくる
- 外国人ドライバーの増加を見据え、多言語対応やピクトグラムで誤解を減らす
といった、「荷待ち記録のデジタル化」を軸とした現場改善です。2025年のデータがそのまま、2026年以降の中長期計画と定期報告の土台になります。まずは、自社の倉庫・センターで、到着から出庫までの流れをどこまで時刻データとして残せているかを確認し、「2026年問題」を単なるスローガンではなく、具体的なアクションにつなげていきましょう。